【SFR】魔蜘蛛が住まう秘瀑、ディラーレクティス

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「セッティング変えるべきかな、やっぱ」

 

瑞ノ瀬超也(みずのせたつや)は悩んでいた。

 

「もうちょっとこう、ブレーキングでステアを切り込んだときにリアがガバッとオーバー気味に流れてくれた方が、な・・・」

 

超也の相棒であるガウディttで峠道をコーナリングをする際、如何にフロントタイヤの負担を減らしながら最速で切り抜けられるかを試案することが、目下の彼の懸案事項である。

 

「フロント2.2、リア2.8・・・これ以上リアタイヤの空気圧を上げるのは危険か」

 

ガウディttの規定空気圧はフロント2.2、リア1.8。FFとはいえ前後重量配分が優れ、サスペンションも硬めなttでは、ハードブレーキングで強めにノーズダイブをかけてもリアが踏ん張ってしまう。

 

ならば、とお金をかけずに「エセチューニング」を行う手段として空気圧を弄ることにしたのである。確かにこれであれば空気によりリアがフロントより高くなり、流すことが出来る。

 

「どうしたもんかな・・・」

 

などと超也が呟きながら天を仰いでいると、

 

ブーブブブ

 

スマホのLINEがメッセージを受信する。

 

誰からかと画面を確認しようとしたそのとき、

 

ブーブブブ、ブーブブブ、ブーブブブ

 

立て続けに3回メッセージ受信。このLINEの受信パターンがあると数秒後に必ず・・・

 

ピポパポピポピポン♪ピポパポピポピポン♪

 

着信があるのだ。超也はノールックでスマホを耳に当て、受話状態にする。

 

「なんか用か?」

 

「ディラーレクティスって知ってる?」

 

脈絡無く、質問を質問で返してきた強引な電話の主は超也の良く知る相手、楠丘菜摘(くすおかなつみ)からだった。

 

獄焉蜘蛛住まう秘瀑

「断崖に阻まれし深山、其処に化蜘蛛待ち構え、最奥に威なる秘瀑有り・・・」

 

アイスホワイトパールエフェクトのガウディttを運転している菜摘は文献にでも出てきそうな文章を呟く。

 

「・・・って昔婆ちゃんが言ってたのを思い出したの」

 

「また随分今更になって思い出したな」

 

助手席に座る超也は足を伸ばしながら、外を眺める。

 

「うん、次どの秘境行こうかなーって考えてたらふと思い出してさ」

 

ドギツいヘアピンが連続するコーナーを、繊細なブレーキタッチとステアワークで華麗にクリアする菜摘。

 

実は菜摘は普通に車の運転が上手く、超也のガウディttに煽りをかます勢いで着いて来る程なのだ。

 

それこそ林道だろうが、何だろうが。

 

「具体的にはどんな場所なんだよ?」

 

大まかには分かるが、口語でなく、文語調の言葉はイマイチビジョンが浮かびにくい。

 

「ざっくり言うと、両崖が切り立った渓谷に岩の間から流れ落ちる滝があるんだけど、そこに行くまでに20mくらいの蜘蛛が住んでるみたい」

 

・・・さらっと恐ろしいことを言う。

 

「まあでも、あくまで言い伝えだし、そんな蜘蛛居たら大騒ぎになってるでしょ」

 

「だと、良いんだけどな・・・」

 

超也は言い様の無い悪寒を感じながら、目的地に到着するのを待った。

 

ユルさ覆す凶悪さ

ガサガサッ・・・ガサガサガサッ!

 

「険し過ぎんだろ」

 

ガウディttを駐車場に停めて、2人とも探索装備に着替えたのち、秘瀑へと進んで行くのだが、あまりにも・・・ヤバい。

 

「あたしもちょっと想像してた以上の場所でビックリしてる」

 

菜摘は表情こそ変わらないが、明らかに慎重な足取りで、普段の大胆さは成りを潜めていた。

 

何せ身の丈を優に越える藪の中、起伏の激しい斜面をひたすら急降下していくのだ。キツくないはずが無い。

 

「ゴルディテラセスのときも感じたけどさ、ほんとにここ俺達の住んでるユルい県かよ・・・」

 

「ほんとにも何も、現に目の前に広がってるじゃん」

 

確かにその通りなのだが・・・。

 

あまりにも現実味が無さすぎて、目を疑いたくなってしまうのだ。

 

「もう超也!ぶつくさ言ってないでいいから進むの!」

 

「はいはい・・・」

 

適当な相槌を打ちながら、超也は菜摘の後を追い、秘瀑への道のりを歩んで行くのだった。

 

 

険しきゴルジュが示す道

「ようやく抜けれた・・・」

 

駐車場から歩くこと1時間、やっとこさ足が可笑しくなるような激藪急斜面を下り終えた。

 

「ほらそこ休まない!ここからが本番なんだから!」

 

発破をかけるように菜摘が指差す先には、川が流れていた。

 

「遡行か」

 

斜面を下り、川のある谷まで出た後に待ち受けていたのは遡行、つまりは川登りだ。

 

「谷を下ってから登り詰める・・・。秘境に眠る滝では有りがちな形態だよな」

 

下った後登るというのはなかなかに身体が疲労するのだが、出逢う景色もまた、格別なことが多い。

 

「だからこそ、秘境はやめられないんだよねぇ」

 

ジャブン、と菜摘は先行して川の水に浸かり源流を目指し始める。超也も倣うようにして川に入り、菜摘の後ろを歩く。

 

入渓ポイントこそ浅瀬だが、数分としないうちに膝下まで水が押し寄せ急激な水の抵抗を受け、歩みを阻まれる。

 

「それにしても、思った以上に進み応えのある遡行だな・・・」

 

というのも川は登るに連れ、幅が一気に狭まり、1m程度の、人一人がやっと歩けるくらいのゴルジュへと変貌していたのである。

 

「これさ、ほんとに辿り着けるのかな・・・?」

 

珍しく菜摘がやや弱気なことを呟く。

 

「どうした?お前らしくも無いじゃないか」

 

普段強気で男勝りな面が多々見受けられる菜摘がこんなことを言うなんて相当、なのだ。

 

こりゃ明日は雹が降るかな・・・、なんて超也がぼんやり思案しながら菜摘の言葉を待つ。

 

「だって・・・GPSは圏外だし、蜘蛛の巣は半端無いし、何よりなんか嫌な予感がしてきて・・・さ」

 

嫌な予感というのは恐らくさっきまで「ただの言い伝え」だと軽く流していた魔蜘蛛のことを指しているのだろう。

 

確かにそれは超也も感じていた。ビリビリというか、言い様の無い不気味な周囲の感覚。

 

だがそれは・・・・・現実のこととなる。

 

「・・・超也・・・あれ・・・何?」

 

菜摘が静かに指差す先、そこにはナニカが、いた。

 

夢想だにしない悪夢

「なっ・・・!」

 

深くV字に切れ込むゴルジュ帯、その合間に、モゾモゾと小刻みに震え動く、巨大過ぎる塊が留まっていた。

 

「何、あれ?」

 

菜摘の表情が凍り付き、ピクリとも動かなくなる。

 

かくいう超也も、まさかここまで不気味な物体に出くわすなんて夢想だにしなかった。

 

動く度に残光するギラギラとした紅い八つの目、一脚一脚が剛毛で覆い尽くされた強靭な脚、丘のように膨れ上がった巨大な腹部・・・。

 

そう、目の前に現れた怪物は、とてつもなく巨大な蜘蛛だったのだ。

 

「ちょっと・・・冗談でしょ?」

 

明らかに菜摘は驚愕し、恐怖から硬直していた。

 

伝承でしか無い、そう言われていた魔蜘蛛が、実在し、眼前に居座っている。

 

かくいう超也も状況が飲み込めず、思考が追い付かないどころか、まともに指を動かすことすら出来ないでいる。

 

こいつは・・・マズ過ぎる事態だな・・・。気付かれないうちに踵を返し、帰路に着くか、強行しディラーレクティスを拝むか・・・?

 

しかし、考えを巡らせるのも束の間、次の瞬間には魔蜘蛛の八つの紅眼は完全にこちらを捉えていた。

 

「キィイイィ・・・グォオオオウォ」

 

今まで耳にしたことの無いような音程で低く唸る魔蜘蛛。

 

魔蜘蛛から向けられていた感情は・・・明らかな敵意。

 

もはやあれこれ考えている余裕は無い、まずはこの場を一旦離れ、安全な場所へ移動することが先決だ。

 

「おいっ菜摘!ひとまず逃げるぞ!」

 

超也は強めな口調で菜摘に促そうとする。

 

しかし・・・

 

「コナイデ・・・コナイデ・・・」

 

片言のように小声で呟き、小刻みに震えている菜摘。

 

「しっかりしろ菜摘!!!」

 

強く発破を掛けるようにして超也は菜摘の肩を掴んだ。が、それが逆効果であったと気付いたのは数秒後であった。

 

「いやああああぁぁぁああ!!!」

 

突如菜摘は叫び、近くにあった小石を魔蜘蛛に向けて投擲した!

 

幸か・・・いや、この場合不幸だろう、菜摘が投げた小石は魔蜘蛛の眼に命中し、ブシュウゥ!という音と共に血飛沫が舞う。

 

「グゥウウ・・・ギャアアアアァオオオォン!!!」

 

ゴルジュに響き渡る、耳をつんざくかの如き甲高く、不快極まりない咆哮。

 

刹那、魔蜘蛛は攻撃態勢へと転じ、前脚を振り上げたかと思うと、先端の鉤爪を菜摘へ向け正確に投げ放った。

 

ヒュン!!!

 

「!?」

 

無意識のうちに、超也は菜摘の前へと躍り出ていた。

 

続く・・・

※この物語はフィクションです。

 

 

 

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