ある日、郵便受けを見ると1通の割引券が入っていた。
「メンズ脱毛体験500円券」
脱毛・・・か。
前々から興味があったといえばあった。
剃刀負けしやすい上、車中泊等遠征をしたときは剃ってもすぐ伸びてくるのでいらんな、と常々思っていたからだ。
とはいえ、高いのはよく言われているし、サロンの術式によっては「脱毛」では無く「減毛」や「抑毛」に過ぎないこともあるし、そもそも敷居が高いと感じていた。
折角の機会だ、行ってみるとしよう。ネットで予約をして、夜勤明けに行ってみることにした。
・・・・・
夜勤明け、お店の門をくぐる。
まずはアンケートの記入とカウンセリングで「脱毛とは何か」を事細かに説明される。
標準の丁寧語で喋ってはいたが、所々で訛りが出ている店員さん。恐らく大阪か奈良辺りか。
「当店の脱毛は先の尖っていないニードルを毛に差し込み、電気を流して組織を破壊して、引き抜くものです」
・・・それだけ聞くと半端無く痛そうなものだが・・・。
「特に今日行う部位は顔の場所の中で最も痛いところです。例えるならラスボス級の痛さと言ったところですね」
エリアボス超えてラスボスと来た。初っ端の脱毛体験でまさかのラスボス。
とはいえ、痛みのグレードが想像出来ない。
「感電したときくらいの痛みですか?」
「www感電はしたこと無いので分かりませんが、痛くてギブアップするお客様もいらっしゃいます」
・・・何にせよ、やべえくらい痛いってことか。
・・・・・
部屋に案内される。荷物籠、姿見、リクライニング式ベッド、そして脱毛器具。
靴を脱いで仰向けに寝る。部位の消毒をされ、アイマスクを掛けられる。
「では始めますね」
覚悟して下さい、と言いながら器具が迫って来る。
・・・プチリ
あれ?今のがそうか?
「どうですか?」
「いや、全然大した痛みじゃなかったです。もっと痛いかと思ってました」
「ほんとですかww」
電気が流れるので毛抜きの5倍くらい痛いと説明されたが、直近の痛みで言うと健康診断の採血の方が痛かった。
「続けますね、ダメだったら無理せず教えて下さい」
「うぃ」
掃除機の駆動音にも似た器具が横で唸ってるのを聞きながら脱毛が続けられる。
流石に連チャンだと痛いと言えば痛いが、充分耐えられる。自分の中で過去最高のPainは山の斜面を下ってるときにジャンプして木の枝を飛び移ろうとしたが失敗して、男子最大の急所に枝(しかも太い)が直撃したときだろう。あのときは暫く斜面で悶絶した。
しかし、脱毛されているとき自身のある異変に気付く。
「(・・・涙出てない?)」
知らぬうちに泣いていたのだ。泣いていた、というより単純に涙が出ている。端から見たらなかなかシュールな光景かもしれないな。
あとから聞いたがツボみたいなところがあるらしく、絶対に涙が出るらしい。
・・・・・
処理が終わった。だいぶ毛量が軽減されている。
折角だしこのまま続けてみるかな。
コースの契約をした。果たして髭の脱毛は無事にされるのか、楽しみでもある。