「ヤマビル」という生物をご存知だろうか?
ナメクジのように茶褐色の外観で、ヌメヌメした体表とシャクトリムシのような独特の移動をする動物である。人々が最大の問題としているのは吸血性を持つことだ。
房総半島で秘境探索をしていると否応にも見かける機会が多いヤマビル、今回は実際の体験談を交えて詳細に特徴や対策をご紹介したい。
※食事中や苦手な方はご注意下さい。
特徴
上の写真は秘境探索に同行した友人が吸血され、地面に落ちた直後に撮影した写真である。丸々と太っており、吸血対象を探している時のような敏捷性は無い。(ちなみに友人にはヤマビルが出るから対策してきてねと再三忠告したにも関わらず、短丈靴下+普通のスニーカーだった為20か所近く噛まれていた(笑))
ヤマビルの体長は2.5~3.5cm程で伸縮性に富み、長さは倍くらいまで伸びる。更に弾力と丈夫さが常軌を逸しており、引っ張ったり踏んだりしたくらいでは退治不可能だ。
体表は基本茶褐色で栗色の縦模様があり、小さなコブのような突起が多く付いている。人間が生理的に最も嫌悪感を示す動物の一つとも囁かれているようだ。
また、実際に物が見える訳ではないが、明暗を判別出来る丸く突き出た眼が一対付いている。
吸盤は前部と後部に付いており、後部の吸盤は前部の吸盤より遥かに大きい。この吸盤の吸い付く力は並では無く、ヤマビルの体重の100倍近い力がかかっても離れることは無い。故に靴に付いた時、もう片方の足で靴の側面を擦り付けるように踏んでみたが効果が無かった。
生態
靴に取り付いたヤマビル
普段は落ち葉の下に潜伏しじっとしているのだが、大型動物が近付くと姿を現し、後部の吸盤で立ち上がり、前部をあちこちに振り回して大型動物の索敵を行う。目も耳も無いのにどうやって接近を感知するのかというと、二酸化炭素や振動、熱などを敏感に感じ取り、判断する。さながらモン〇ンのフルフルである。翼と足が無いことと色が違う事を除けばそっくりだな・・・・。
移動については独特な方法を取り、尾(もしくは頭)の吸盤を地面に付け、もう片方の頭(もしくは尾)を長く伸ばして吸盤で貼り付き、尾(もしくは頭)の吸盤を離し、を繰り返す。出現ポイントに5秒でも立ち止まろうものならすぐにでも地面からヤマビルが這い出て来て靴に取り付く。取り付いた後は皮膚の柔らかいところ、もしくは衣服の中に潜り込み吸血する。
吸血時間はとても長く、1時間にも達する。顎の中にある歯で皮膚を食い破り、ヒルジンという毒を注入するので、吸われていても気が付くことはまず無い。毒と言っても後天的に影響のある毒では無く、前述の痛みを感じなくなる麻酔効果に加え、吸血された後も2~3時間は出血が止まらないという程度である。これは吸血中に血液が固まってしまっては血が吸えなくなってしまうので、それを防ぐ目的があるのだ。
吸血後は何もせずともポロっと地面に落ち、また落ち葉などに身を潜める。やがて脱皮を繰り返したのち、産卵する。ちなみにヤマビルは吸血から丸2年という絶食に耐える。如何にエネルギーの消費を最小限に抑え活動が可能か分かる。
千葉県においてヤマビルは3月下旬から11月中旬にかけて活動する。それ以外の間は冬眠しており、春先の気温が20℃程度続くと活動時期に入る。20℃~25℃くらいの範囲がヤマビルにとって最適な気温であり、30℃を平気で越える夏場などは直射日光を避け、ジメジメした泥や落ち葉の下に隠れている。乾燥に弱い為太陽が当たり続けると伸び切って死んでしまうのである。地表温度は気温が30℃の時に55℃まで上昇するのでヤマビルは耐えられない。実際一度廃国道410号線三島隧道へ向かって、廃道区間の伸び放題になった枝や藪をマチェットで払いながら進んでいる時に、丸々太ったヤマビルを目撃したのだが、乾いたアスファルトを必死に避け、枝から枝へと巧みに移動していた。
降雨時においては晴天時とは比較にならない程活動が活発になる。ただし地面が水浸しになるゲリラ豪雨のような極端な降水量だと姿を現すことはほぼ無い。ゲリラ豪雨の8月に田代滝へ行った時は出現ポイントであるにも関わらず、這い出て来なかった。その1週間後に同田代滝へ行った際は軽い降雨だった為、わんさかヤマビルが湧いてきた(笑)
試しに靴に貼り付かせたまま滝のある渓流まで行き、川の中に足を沈め15分程待ち、川から上がってみたところ、すぐにヤマビルは活動を再開した。調べてみたところ、どうやら水の中に3日入れられても生きていられるようで、15分程度ではヤマビルにとって何でもないようだ。そういった意味では水陸両用のずば抜けた生命力を持つと言っても過言では無いだろう。
分布
ヤマビルが千葉県で多く目撃される印象が強いとはいえ、その地域は一部に限られている。一般的に赤枠で囲まれた範囲がヤマビルの生息域、或いはその可能性が高いとされている。加えて実際に僕が秘境探索をしてヤマビルを目撃した場所を赤い〇で示した。追原廃集落、田代滝、廃国道410号線三島隧道、林道横尾線、坂畑怒田では実際にヤマビルを確認しているし、実際に見てはいないが四方木不動滝、湯ヶ滝廃集落、水没廃県道24号線、麻棉原天拝園にも確実に存在する。大多喜ダムは微妙なラインだが、居ても可笑しくは無い。T秘境、S秘境には真夏に行ったが、ヤマビルが好む湿地帯においてもいないことは確認済である。
上の地図を見てもらえれば分かる通り、君津市と鴨川市が特に広く分布している。この2市はオイシイ物件が多いので新緑とセットで夏場に撮りたくなるのだが、とかくエグイ量のヤマビルが這い出てくる為、ガチで見たい物件を除いて基本はヤマビルが確実に冬眠している12月~2月に行くことにしている。
対処
そんな無敵に近いヤマビルにもやはり弱点はある。それは塩だ。ヤマビルの体表はナメクジのような粘膜は水分が蒸発しないよう保護の役割を持っている。塩をかけると体表の水分が一気に奪われ脱水症状になり絶命する。濃食塩水に靴下や首に巻くタオルを浸して乾かしてから着用すると脱水症状を恐れてヤマビルは近寄ることを嫌がる。小さいスプレーボトルに濃食塩水を入れておき、15分間隔くらいで靴にかけると忌避剤として有効だ。塩はヤマビルの嫌がる物質の中で最も手軽で安く手に入るアイテムである。
他にもエタノールとハッカ油を混ぜた忌避剤もスプレーボトルに入れて常備している。エタノールは近づけただけでも効果があり、吸血中でも簡単に落ちる。ハッカ油のスースーする成分であるメントールもヤマビルは嫌がり忌避する。混合比率はエタノール8に対してハッカ油2程度。エタノールは薬局で売られている消毒用エタノールで問題無い。
また目の細かいストッキングとピッタリしたスキニーに厚めの靴下を履いて靴下の内側にスキニーを入れるようにすれば、ふくらはぎや太ももを吸われる可能性は低くなる。そこに前述の濃食塩水かエタノール+ハッカ油忌避剤をかければバッチリだ。
火にも弱く、タバコの火やライターの火を近づけてもポロっと落ちてくれる。
それと、これは喫煙者のみに限った話だが、ヤマビルはニコチン自体を嫌う。喫煙者の血液にはニコチンが残留する為、吸血されにくくなるのだ。僕も1日1箱以上吸わないと体が持たないヘビースモーカーだからか、今までにヤマビルに吸血されたことは1度しかない。タバコを吸わない人からしたら関係の無い話ではあるが・・・。
九死に一生を得た経験
さて、ここまで一般的に知られている内容に少し経験を加えてお送りしたが、最後に秘境探索をしている時に背筋が凍る思いをした、僕の実体験を紹介したいと思う。
その場所というのは廃国道410号線三島隧道。かれこれこの場所は夏2回、冬1回の計3回程訪れているのだが、始めて行った時は真夏だった。2015年7月13日のことである。まだこの時は秘境探索の経験も浅く、きちんとヤマビルの生息域も把握出来ていなかった。
軽く行った事前調査では生息情報も見当たらなかった為、全くの対策無しで探索を行ったのである。そして探索を終え車まで戻る時、ふと嫌な予感がした。
まさかヤマビル入り込んでたりしないよな・・・・・、と思い靴を脱ぐと・・・・・
!!!!ギャー!!!!!ヤマビルが20匹程、靴の中にいる!!!
※驚きのあまり写真を撮る余裕がありませんでした(汗
すぐに靴を脱ぎ捨て足元を観察してみたが幸いどこも噛まれてはいない。しかし困った、対策はしていなかったから備えが無い。つまりこのままだと裸足で車まで歩き、運転することになってしまう。
さて、どうするか、である。
アスファルトの上に靴を置きリュックの中を確かめてみる。ジッポ、ピンセット、タバコ…イマイチ決定打にはならない。ジッポかタバコの火を近付ければ確かに落ちる、だが下手をすれば靴を炙ることになりかねない。
ピンセットやデコピンで吹っ飛びもする。しかし靴の中の爪先に入ったヤマビルは引き出すことが出来ないのだ。万事休すじゃん・・・・そんな言葉が脳裏をよぎった。
と、その時、ヤマビル忌避剤の作り方を思い出した!前述した通り、自家製ヤマビル忌避剤はハッカ油と消毒用エタノールで作る。リュックの中にはシーブリーズがあり、シーブリーズにはハッカ油と似たような清涼感つまりメンソールが入っている!またエタノールも含まれている!!
これは、もしや・・・・
試しに地面に落としたヤマビルにかけてみる。
!!!勝った!!!かけると同時にヤマビルは苦しむ間も無く身体を丸めて絶命したのである。ヤマビルにシーブリーズは効くことが実証された瞬間であった。
その後ヤマビル駆除に格闘すること30分、シーブリーズを丸々1本使いきりようやく全滅させることが出来た。靴紐と中敷きまで外し徹底的に除去。お陰で靴の中はシーブリーズでびしょ濡れにはなってしまったが(笑)
まとめ
・落ち葉などに隠れ、動物の二酸化炭素や振動、熱を感知し地面から這い出る
・吸血中はヒルジンを注入し、麻酔効果及び血液凝固阻害作用がある為、吸われても気付かず、吸血後2~3時間は止血不可
・20℃を越えた3月下旬から活動を開始し、11月中旬頃から冬眠する
・直射日光と極端な降雨時は出現しない
・鴨川市に広く分布し、君津市、富津市、市原市、大多喜町、勝浦市にも生息する
・塩が弱点で、濃い食塩水を衣類に染み込ませると忌避剤として作用する
・エタノールとハッカ油を8:2で混合させ衣類に噴霧すれば忌避剤/殺虫剤として効果抜群
・シーブリーズも忌避効果は弱いが、殺虫剤として代用可
以上でヤマビルに関するレポートは終わりである。この記事を参考にして、房総半島における秘境探索に役立てて頂ければ幸いである。
終
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良ければ愛車と写真撮影する際の参考にして下さい。
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