房総半島には実に多くの渓谷がある。
自然に形成されたもの、人工的に形成されたもの、種類や成り立ちは多種多様である。
その中で特別景観に優れる訳でも、難易度が高い訳でも無いが、攻略が容易で大自然そのものに身を置ける渓谷をご紹介したいと思う。
林道と集落に挟まれた渓谷
今回レポートする場所の名前は梨沢渓谷。富津市に位置し、梨沢集落と林道鹿原線(しっぱらせん)が程近くにある。
富津市の渓谷と言えば伝説の大蜘蛛が住まい二度と帰れないと噂される魔滝や、トータル数十メートルの落差を誇る大峡谷地帯の本村川源流、人工景観ながらも自然形成と遜色無い程美しい高宕渓谷(T秘境)と特筆すべき秘境が数多く眠っている。冒頭にも書いたが、梨沢渓谷は決して見る価値の高いスポットでは無いが、初心者でも簡単に攻略出来、尚且つ自然そのものに触れ合えるという良スポットなのだ。
アクセスとしてはもみじロードで有名な千葉県道182号線から志駒地区付近にある林道鹿原線へ入り、そのまま進む。近辺に駐車場は無いのだが、集落付近の道路は比較的道幅が広く、交通量も少ないので、邪魔にならない道路脇を選んで停めておけば問題になることはまずない。秘境へ訪れる際はくれぐれも近隣住民への迷惑を最小限に抑えることを第一に考えなければならない。
梨沢集落を目指す
もみじロード北上⇒林道入口
現在地は千葉県道34号線、鴨川市金束付近。何故南側からなのかと言うと、この日は水没廃県道24号線と廃国道410号線三島隧道を先に回っていたからである。その足で梨沢まで行き、探索してみようと思い立ったからだ。
そのまま西側へ進み182号線との分岐に突き当たる。
182号線を北上し、志駒地区に差し掛かる。そこからV字ターン気味に左折すると林道鹿原線の起点となる。
もみじロードを軽く補足しておくと、県道34号線と182号線の交点から北側の国道465号線までの約10kmが一般的にもみじロードと呼称される。全線片側1車線が確保された2車線道路で、アップダウンは少ないが、コーナーが適度に配置されており、ワインディングロードが好きな方には外せないコースとなっている。僕自身、千葉探索を終えた後、わざわざこの道を選んで通り、家を目指すことがしばしばあるくらいだ。
びっくらゲート
なんじゃこりゃ・・・
林道に入ってすぐ、不思議な光景を目にした。元の幅員が3m近くあるが、その内1mくらいがガードレールによって殺されている。目算2mは確保されているように思えるし、これは明らかに大型車対策だろう。車幅が2m以下の普通車にはなんら障害にならないゲートだが、ダンプカーなどにとってはどうやっても通ることが出来ない。真相は分からないが、この先に住まう方々が通り抜けを行う大型車にほとほと手を焼き、痺れを切らして強制排除させる手段に転じた、と考えるのが妥当だろうか。
とはいえ、周囲に転回出来るようなスペースなど到底皆無で、仮に大型車が入ってしまえば泣く泣く林道入口までバックせざるを得ないだろう。ちょっと気の毒にも思えてくる。
静かな集落地帯
所々林道は日差しの差し込む林間を疾走するシーンがある。探索をしたのは夏真っ盛りな7月下旬。日中の気温は35℃を優に超え、エアコンをかけていなければ車の中で蒸し焼きになってしまうのではないかと錯覚する程だ。日光を直接浴びずに済む林の区間は一時の「涼」をドライバーに与えてくれるありがたい存在と言えよう。
ちょっと休憩。
なんとなく辺りが開けていたので、遠くまで見渡せそうな気がしたのだが、ただの思い違いで全く遠望が出来ない。まあろくすっぽ山らしい山が無く、山があっても思わず息を呑むような景色が見られるのは精々鋸山くらいだと思う。
写っているのは僕で上半身タンクトップだが、それでも相当に暑い(笑)真夏はとても人が住んでいられるような場所じゃないな、関東は。元々北海道で20年近く暮らしていたので、寒さにはめっぽう強いが、暑さには飼育されている牛並みに弱い。・・・とはいえ、暑さのレベルからすると関東のは可愛いものなのだ。中学生の時習い事の全国大会で本部の香川に行った時、8月下旬にも関わらず、日中の気温はなんと43℃だった。北海道の新千歳からだったので一旦羽田を経由したが、高松に到着した時次元の違う暑さに戦慄したのをよく覚えてる。「関東って涼しかったんだな」・・・・と。
・・・話が脇道に逸れてしまった。既に林道は終わり、梨沢集落へと到着している。さて、問題はどこに車を停めるか・・・だが。
ここに停めた。道路の車線の外側に丁度良いスペースがあったので、停めさせて頂いた。こっからは渓流装備に着替えて徒歩で行軍することになる。
何は無くとも不動滝
隧道エントランス
おお、素掘ィ・・・・
長さはさほど無いが、軽自動車サイズに掘られた丸めのフォルムが何とも愛らしい。路面が未舗装なのも不知火的にポイント高いな。頑張ったらギリッギリ相棒TTでも行けなくはなさそうだが、ちょーっち厳しいかもしれんね。
現在地は渓谷入口まで間近な場所だ。文字通り、隧道がエントランスになっていると言っても差し支え無いだろう。
ご丁寧に渓谷の案内図が設置されていた。周回ルートは約11kmと書かれており、何気に所要時間も5時間30分と長めだ。装備としてはウェーダーを着込んでおり、長時間の探索にも耐えられるように準備しているが、初見だし軽めに不動滝までにしよう。
ただの河原・・・じゃね?
・・・・?あれ?ルート間違えた?
ぶっちゃけあんまり綺麗じゃない景色だ。どっちかっつうと、その辺の河原って感じがする。水量も壊滅的で、全くもって迫力が無い。入渓早々、テンションガタ落ちである。
とは言ってもまだ入渓して間もない。序盤から出鼻をくじかれた気持ちだが、きっと不動滝まで行けば不知火好みの景色が待っているに違い無い。・・・てかそう思なきゃやってられん。
入渓から数百メートルくらい進んだだろうか。山深い風景が追加されたことで若干印象補正にプラスがかかる。でも、でもだよ?ほとんどジャリジャリした岩場ばっかで渓流らしさがまるで感じられないのよさ。これならT秘境(高宕渓谷)歩いてる方がよっぽど楽しめる気もする。「人工」に「自然」が負けてるってのもどうなのよ。
サブクエスト:土砂ダム
どしゃだむ が あらわれた !
うん、そうだね、土砂ダムだね。これと言ってコメントも思い浮かばない、一般的なタイプだ。過去何度も落石と倒木に寄って形成されたこの手の物にぶち当たっていたので、正直言うと慣れている。
ふと右手に目をやると、「迂回路」が設置されていた。この場合当然のことながら土砂ダムを越えていくのが最短ルートだ。実際看板にも5分と書かれているし。
地図で示すとこんな感じだ。ちょうど今緑の最短ルートと紫の迂回ルートの分岐地点にいる。迂回すれば滝の上部に回り込む形になり、最終的には斜面を急降下することが予想される。最短なら土砂ダムさえ越えれば簡単に辿り着けるはずだ。
だが「急がば回れ」ということわざが示すように、時に急ぎはミスや事故を生んでしまう。さて、どうしたものか・・・・。
・・・・・・安全策?否!!!男不知火、目的の為なら多少強引にでも壁を突破するのがモットーだ!ここは男らしく(?)土砂ダムに立ち向かおうジャマイカ。
待ち望んだ景色
びゅ、びゅーちふぉー・・・
土砂ダムを越えて歩いてみれば待っていたのは房総の渓谷を体現したかのような風景。
辺り一面草木や苔に覆われた、緑のカーテンを纏った梨沢がそこにいた。
辺りには道路も民家も何も無い、圧倒的静寂に支配された渓流。梨沢は美しいという声をちらほらと耳にしていたが、なるほど、これは確かに・・・。
暫し深緑に見惚れたのち、変な岩の段差を登っていく。ここを越えたらいよいよなはずだ。
ガッカリ過ぎる不動滝
無理くり土砂ダムを越えたのち、辿り着くことが出来た不動滝。だが、そこに待ち受けていた滝とは・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ショボ。
おいおい、こんなのって無いぜブラザー。滝というより湧水レベルよ?一応は目的地であった梨沢不動滝なのだが、御覧の通り水量もヘッタクレもあったもんじゃない。周りの断崖がせっかく良い味を出しているというのに、この仕打ちである。何の為に炎天下の道中をわざわざ行軍してきたというのだ。
確かにまともな山が無い房総半島なのだし、分かっていたのだし、仕方無いのだがそれにしてはあまりにも悲し過ぎる。
とりあえず、帰ろうかとも考えたが、流石に消化不良過ぎて満足出来兼ねるので、滝の脇をよじ登り俯瞰してみようと思う。一応川ではあるので、どこもかしこも水が流れているし、苔で表面はツルツルしている。きっちりと窪みに指と爪先を引っ掛けながら上を目指した。
ちなみに左腕に着けている腕時計はアウディ純正アクセサリー、Heritageシリーズのものだ。20気圧まで許容し、素潜りも可能な為、山や川などに赴く際は必ず装着している愛用の時計である。ラバーストラップは過去ラリー界に革命をもたらした麒麟児、アウディクワトロのタイヤトレッドをモチーフにしたものだという。
滝口へと到着。高さはざっと6mと言ったところか。滝壺も水量の割にはそこそこ深さが伴っている。落ちても死にやしないだろうが、大怪我は免れないと思われる。
簡単に滝の上にも登れてしまい、いよいよやることが無くなった。降りて来た道を戻ろうかどうしようか考え込んでいたのだが、ここに来て夢想だにしなかったハプニングに襲われる・・・・。
ゲリラ豪雨
滝の上で暫くの間迷っていた。車まで戻って別の場所に向かうか、はたまた進軍して七つ釜と呼ばれる場所まで行ってみるか。すると・・・
ピチョン・・・ピチョン・・・ピチョン・・・・・・・・・・・・ザーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
!!雨だ!!しかもただの降雨じゃない、ゲリラ豪雨だった!ここのところ天気が急激に変化する日多く、雲一つ無い快晴の時にいきなりゲリラ豪雨が降りしきるケースも散見された為、全く予想していなかった訳では無かった。とはいえ、急転直下な展開で軽く驚いてしまったのもまた事実である。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・
雨の勢いに呼応するかのように、川もまた水量をみるみる増していく。
急いで滝壺に降りてカメラを構えた。さっきまでの湧水レベルだったのが嘘みたいに思える。水流の本数が増え、だいぶ滝らしい外観だ。
ゲリラ豪雨が降り始めてから5分と経っていないにも関わらず、この変容。如何に千葉県の滝が雨によって印象が大きく変わりやすいか分かると思う。
ゴロゴロゴロ・・・
ん?何の音だ?僕のお腹の音か?いやでもさっき渓谷に入る前におにぎり食べておいたぞ?・・・ということは・・・・・・?雷だ!!
やべえ、雨だけじゃなく雷まで鳴り始めやがった。他の場所ならいざ知らず、ここは渓流、しかもモロ水の中だ。もし落雷が近くの濡れた場所にあるものなら、間違い無く感電する。この日釣用のゴム製ウェーダーを着て来てはいたが、靴底に穴が開いているらしく、川の中で一歩踏み出すごとに「グチョ・・・グチョ」とあまりよろしくない音が耳に届いていた。落雷が水に落ちればそのまま穴の開いたウェーダーを伝って体の中に入り確実にお釈迦だ。落雷時の電圧は最大10億ボルト、電流は最大20万アンペアと言われており、人間は1アンペアでも心室細動を起こして死に至る可能性が高いらしいので、雷なら尚更である。
あと、今までに数回コンセントやカメラを分解している際に誤ってコンデンサに触れてしまい感電したことがあるのだか、感電すると筋肉が弛緩する為自分の意思とは無関係に電撃部から離れることが困難になる。コンセントやカメラのコンデンサ程度なら感電しても放電しきれば力を失うのでろくに被害は無いが、電撃を流し続けている物体や雷のように瞬間的に莫大なエネルギーを放出するものなら話は別だ。「あーーーー」と思っている間に内臓が破壊されてしまう。電気というのは身近で便利なものであると同時に恐ろしいものだということを改めて実感させられる。
話がどうでも良い方向に逸れたが、要するにゲリラ豪雨で雷が鳴っているが、逃げ場が無くて絶体絶命だということである。
まあ四の五の言っていてもどうしようも無いので、とかく雷が落ちないことを祈りつつ、車へ戻ることにした。幸い渓流入口に戻る頃には雨も止み、元の快晴な青空へと変わってくれた。
帰りの小ネタ
そういえば車に戻る途中、崖の下にふと目をやると、猪の親子を見つけた。普段は警戒心の強い猪だが、垂直距離にして10m以上離れていたせいか、こちらに全く気付かず夢中で土の中を探っていた。ミミズなんかを見つけて食べているのだろうか。その姿がとても愛らしく、20分近く眺めていた。
運の悪いことに我が相棒の元に戻るや否や、またゲリラ豪雨に見舞われた。だがなかなか降りしきる雨の中愛車を撮影する機会も訪れなかったので、例の林道鹿原線に設置されたゲートで写真撮影を試みた。幾本もの水の線が雨の凄まじさを物語っていると思う。
ちょうどドラレコから見ると1人のBAKAが写っている。無論僕である(笑)ビニール袋を被せ、出来る限りカメラが濡れないようにして撮影した。
見えねぇ・・・。何でも良いが、とんでもなくゲリラ豪雨がハードな秘境探索になったと言えるだろう。
終
相棒TTと撮影したオススメスポットを地図にまとめています。
良ければ愛車と写真撮影する際の参考にして下さい。
記事内にイチオシスポットも挙げて幾つか紹介しています。
今まで訪れた秘境スポットを地図にまとめています。
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僕が行ったことのある観光地をマイマップにまとめました。
観光地についてもそれなりに行っていますので是非見てみて下さい。