千葉県は廃村や廃集落が少ない。気候が温暖で、雪は僅かにしか降らず、平野部が多いことが主な理由とされている。
しかし、極少数かつ小規模ながら、追原を始めとした廃集落は存在する。加勢、台倉、などがそうである。
今回はその廃集落の一つ、湯ヶ滝廃集落をレポートしたいと思う。
追原に近いもう一つの廃集落
場所は君津市黄和田畑。千葉県道81号市原天津小湊線が東側を通り、すぐ西に小櫃川、その更に西側に以前レポートした追原廃集落とこの湯ヶ滝という集落は存在していた。追原と湯ヶ滝は直線距離にして僅か1.3kmしか離れていない。
湯ヶ滝は最盛期においても住居の戸数は3軒程。現在では内2軒が倒壊し、1軒のみが廃墟として現存しているのだ。
集落として人の営みがあった頃は、追原と同じように炭焼きや狩猟、農業や木挽といったことが主な収入となっていたようである。
かつては小櫃川に架かる木製の橋があり、集落と県道を行き来していたのだが、橋は崩落し主要な交通手段は絶たれてしまう。1963年辺りから移住が始まり、1966年頃までには最後の1軒も移り、廃集落と化したのだ。
今回は僕にとって初めての廃墟探索となる。「廃墟」という言葉の重さと外観や内部の雰囲気に飲まれてしまいそうで、なかなか手が出せなかったのだ。だが千葉県に残る貴重な廃集落ともなればなんとしてもこの目で見ておかなければならないと思い、決行を決めたのだった。
見つからない入口
幾つか湯ヶ滝へ辿り着くルートはあるそうなのだが、地図を見ていて始めに思い付いたのが川を遡行するルートだった。白岩温泉付近の小道から小櫃川へ入渓し、そのまま川に沿って進み目指そうというものだ。これなら割と簡単に行けそうだぞ。
・・・・・と思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
前述した白岩温泉付近の小道から小櫃川へ入渓する。
静謐とした雰囲気が漂う小櫃川。春夏秋冬という季節を選ばず、変わらない景色を見せてくれるのがこの場所の特筆すべき点と言えよう。
季節は2月。勿論房総半島で猛威を奮うヤマビルさんは絶賛冬眠中である。草木の緑色を交えて撮るなら当然夏場だが、そのヤマビルは半端じゃない程ウヨウヨしている。目を離した途端に靴に吸い付き、あっという間に吸血箇所まで移動してしまう。慣れれば何とも無いが、まだちょっと慣れていない(笑)
ヤマビルについての特徴や対策は以下記事を参照して頂きたい。
それに房総半島は真冬でも滅多に雪が降らない上積雪も稀なので、草木の緑色は見れなくても苔や常緑広葉樹、針葉樹といった植物は冬でも緑色を保っていることがあるのでそれなりに良い景色になるはずである。
小櫃川を西側に少し進んだところに見慣れぬ物を発見した。
なんだこれは・・・?
後で調べて分かったことだが、これは白岩温泉へ繋がる源泉装置である。この辺りは千葉では珍しい硫黄泉が湧くことで知られており、実際微かに硫黄の香り、つまりは硫化水素の匂いがした。なるほど、こんなところから引っ張っていたんだな。
ちなみに白岩温泉には一度訪れたことがある。謳い文句が「紅葉を見ながら入浴出来る」というものだった。温泉付近には「白岩」と呼ばれる紅葉スポットがあり、名の通り白い岩の壁一面に赤や黄と言った紅葉が目を楽しませてくれる隠れた絶景なのだ。
以前撮影した白岩の紅葉である。何とも美しい。
その紅葉スポットに程近いこの温泉、さぞ良い眺めなのだろうと行ったのだが、お店の人に聞くところによると「寒い時期はぬるま湯しか出ない」そうだ。・・・・・・・正直温泉の意味が無い。施設のパワーが弱くてお湯にしても保温が効かず、すぐにぬるくなってしまうらしい。「紅葉を見ながら入りたいのなら近くの七里川温泉へどうぞ」とも言われてしまった。ちょっと残念だった。ただ、事前に予約で注文しておけば鹿や猪の料理が振舞われるそうなので、興味があれば是非白岩温泉へ行ってみてはどうだろうか。温泉はともかく、ジビエ料理は独特の風味があり、美味しいので食べてみる価値はある。
話が逸れた。この後更に西へと進んでみたのだが、どうにも土砂ダムがあり、進むのは困難であった。その為一度入渓ポイントまで戻り、川を北上する。
地図で見るとだいぶ湯ヶ滝から逸れてしまった、が、代わりに凄いものを見つけた。
房総名物、水路隧道である。
遠くから撮ってしまったので迫力に欠けるのだが、穴の高さはおおよそ3m程はあった。加えて先の見えない不気味さも相まって得体の知れない雰囲気が漂っていたのだ。
だが・・・・一体湯ヶ滝への入口はどこなんだ?
ほんとは簡単だった集落入口
水路隧道のあった地点を更に北上したところ、入れそうな小道を見つけた。
こっから行けんじゃね?
実は集落への入口は捻りも何もなく、ただ単に札郷トンネル南側の階段を降りて小櫃川を渡行すれば、ものの30秒で到達出来たのだった。それをわざわざあっち行ったりこっち行ったり右往左往して無駄に時間を浪費してしまったのである。何とも恥ずかしいお話だ。
上の写真で言うとすぐ右側に集落入口、正面上方に車を停められるスペースがあり、階段を降りれば最短距離で向かえる。
如何にも房総らしい山道
一旦大回りに土手を上がり、すぐ左手に小櫃川のある山道を進む。
まあま、如何にも「房総です」という感じの道だ。表現が抽象的で申し訳ないが、そう例えるしか他に思い付かない。もう少し具体的に書き加えると、冬でも木々の緑色が随所に残り、脇に生える苔が色どりを添えてくれる、とでも言うべきだろうか。
正直追原廃集落へ向かうよりずっと楽で距離も短い。特に頭で考える必要や、迷う心配もないまま、廃集落へと確実に近づいていく。
邂逅
ふーむ、多分この辺りだと思うんだがなぁ・・・。
迷わない、と言ったが、前言撤回。集落付近の山道は完全に一本道で迷わないが、地図では集落が目の前、というところで家屋を見つけるのに手間取った。
何故なら予想以上に自然に同化してしまっていたからだ。
既に湯ヶ滝が廃集落と化してから数十年が経過しており、木造建ての建物は半壊していてもおかしくない。1990年代に修行僧に宿として貸していたという事実もあるが、例え時々人が泊まることがあっても手入れがされない家屋というのはどんどん老朽化していく。本当に現存しているのか・・・・?
と、思っていたその時・・・・・・・・・!
!!!!!!!!!!!!
KO☆RE☆DA、間違いない・・・。
探索から歩き回る2時間、ついに湯ヶ滝廃の廃墟へと到達した。
外観から極まりない不気味さ
如何にも「何か出そう」な雰囲気である。
廃墟を近くで見るのはこれが初めてなのだが、やはりというか不気味だ。正直言うと結構怖い。
家屋は一階建てで写真の左手に正面玄関がある。
廃墟の前に置かれていた機械。キャタピラーに荷台が取り付けられており、恐らくはこれで農作物や資材を運んでいたのかと思われる。
玄関から見て右手に回り込み撮影した。こちらは木が建物自体に絡み付き、外観の半分が覆われている。
こちらはリヤカーだろう。荷台は無くなり、タイヤと骨組みだけが残されている。車も入れないようなこの集落だ、リヤカーは荷物運びとして大いに活躍したはずだ。
更にはポンプらしきものが残されていた。地下水を汲み上げ、家屋に引き込む役割をしていたのだろうな。追原廃集落にはこういったものは見当たらなかったので、随分と近代的な文明臭を感じる。
さて、一通り外観は見回った。問題は、この後どうするか、だ。
前述したとおり、僕は廃墟に来ること自体初めてである。加えて単独探索。幾ら朝とはいえ、一人で入る勇気が湧かない。
「廃墟」というジャンルに踏み入ることに抵抗感があり、どうにも中に入るのを躊躇ってしまったのである。
暫し逡巡する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・入ろう。
わざわざ廃墟の目の前に来て、引き上げるというのは何とも情けない話だし、ふと「男は度胸、何でもやってみるのさ・・・」という例の名言を思い出す。
では、行かせて頂きます。
ゆっくりと玄関の引き戸を開け、室内へ入る。
おじゃましまーす・・・・・・・
閉じ込められた時間
ゴクリ・・・・・・
これが、廃墟・・・。
何だろう、怖いのに美しくもある。「廃」というカテゴリには不思議な魅力があると常々感じていたが、それは廃墟にも通じるところがあったのだ。
床には鹿か猪と思しき動物に食い千切られた座布団と綿、それに障子が散乱していた。
意外というか、居間の老朽化はさほど酷くなく、床板もミシミシと音を立てる程度で抜けていたりといったことは無かった。ただ、一歩踏み出すごとに天井もミシミシ音を立てていたのは若干恐怖であった。流石に天井抜けたらシャレにならんからな・・・・。
役目を終えて久しい、置時計とラジオ。
ラジオには「JEAGAM505」と書かれており、三菱が過去に販売していたBCLラジオというもののようだ。
今から右奥の茶の間。最も部屋の状態が良い。まあここで寝たいとは正直思わない(笑)
なるほど、廃墟というのは往時の生活がどのようなものだったのかというのが、手に取るように分かる。住居の置かれている場所、部屋の内外に残る農機具や家電、残された日用品や嗜好品、それら全てに記憶が詰まっているのだ。廃墟が好きな方の気持ちが少しだけ分かったような気がする。
これは酷い(笑)
居間から見て左奥の部屋は寝室のようだが・・・凄まじい荒れ具合だ。
床板は腐って抜け、めちゃめちゃに盛り上がっている。こりゃ下手に進むと周りも崩壊しそうだ。
部屋の隅ギリギリから撮影。箪笥には寝具が収められており、部屋に置かれた布団はきちんと畳まれていてあまり荒らされていない。
居間にもあった電灯が寝室では傾いている。こんな途轍もない山奥にも送電が行われていたのか。点検に来る電力会社の社員も骨が折れる思いでここまで来ていたのだろうな。
ざっくりと部屋の間取りを図にするとこんな感じだと思う。全部部屋を見た訳では無いし、面積を測って無いので断言は出来ないが、他の方の情報などを織り交ぜると居間(洋間)の左手にはキッチンと風呂場があるはずだ。トイレが分からないが、あるとすればキッチンの北側、風呂場と同じ場所にあったのではなかろうか。
以上で湯ヶ滝廃集落のレポートは終了である。千葉に残る数少ない廃集落、その内の一つ湯ヶ滝。ゆっくりと、しかし確実に自然に還りつつある廃屋は、集落の歴史と共に深い眠りに着いて行く・・・。
終
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観光地についてもそれなりに行っていますので是非見てみて下さい。