TT。
2012年12月22日に僕の元に来て、平成最後の年である2018年度で丸5年が経つ。
この区切りの年に、相棒TTとの出会いを振り返ってみようと思う。
今でこそあらゆる秘境や観光地へ同行してくれる、かけがえの無い大事な存在だが、実を言うと買う前はTTという車種が嫌いだったと言ったら信じてもらえるだろうか?
アウディに興味を持ったのはあの映画
時は高校生まで遡る。ある日ふと、とある映画を観たくなった。それはトランスポーター。イギリス人俳優、ジェイソン・ステイサムが演じるカーアクション映画だ。「契約厳守」「依頼人の名前は聞かない」「荷物の中身を開けない」という主人公フランク・マーティンは3つのルールを課し、あらゆる荷物をあらゆる場所へ運ぶという話だ。
たまたま中学時代、テスト期間中にテレビをつけたらやっていたのがトランスポーター、それもトランスポーター2だった。で、高校生になって思い出し、もう一度観てみようと思い立ったのだった。
高校生のその日調べて観たのは続編に当たるトランスポーター3アンリミテッド。ジェイソン・ステイサムがフランク・マーティンとして出演する、最後のトランスポーターである。
最初の作品トランスポーターではフランクの愛車はBMW735i。マニュアルのミッションを巧みに操作し、依頼人である銀行強盗を乗せて警察車両から逃走するシーンは鳥肌もの。それが2からアウディA8に変わり、3でもA8がフランクの愛車となっている。
設定上はアウディのフラッグシップサルーンの中で最も高いグレード、A8 L W12だが、実際は違っていてA8が使われている。メイキング映像によると、前作2がA8であった為、よりグレードアップさせ、スポーツテイストにチューンしたらしい。A8 L W12は名の通りW12気筒のエンジンを搭載した車種だがA8はV型エンジンの為、よーく音を聞いていると違っているのが分かる。加えてミラーもS8の目印であるシルバーになっていたり…。
トランスポーター2に続き、3アンリミテッドでも兎に角A8が大活躍する。途中メルセデスEクラス(W211)に乗った追跡車両を逆に追い詰め、崖から突き落とさせたりもするのだ。あとは敵のボスが乗った列車の屋根に橋の上からA8ごと飛び移り、格闘する、なんてシーンもある。
大迫力の、僕にとっては傑作とも言える映画だが、当時は別段アウディに興味があった訳では無い。むしろ「丸っこくて、パッとしない、変な車」というのがA8もといアウディに対する印象だったと言うのが当時の本音だ。その頃は専らハマーH2等のカクカクしたアメ車の方が遥かに僕の中で好印象で、ハマー乗りたいなぁ、なんてぼんやり考えたりもしていたのである。
移り行く気持ちの中で
そんな微妙な印象でしか無かったアウディだったのだが、少しずつ心境に変化が訪れる。
前述のトランスポーター3アンリミテッドを観てから、まだ観ていなかったトランスポーター(1)を観て、更に2、また3と繰り返し観賞するうちに、「アウディって良くね?」という気持ちになってきていた。はっきり「どうして?」というのは分からない。ただ何となくアウディというメーカーと車種に興味を持ち始めていたのである。
アウディジャパンのホームページにアクセスし、最初に勿論A8の外観や諸元を見た。当時は車のスペックに詳しかった訳では無かったが、外観や内装だけなら知識が無くても良い悪いは判断出来る。「洗練されている」と感じた。他の車の、少なくとも日本車とはどこか違う良さを見た気がする。
一通り車種を見てみようと思い、A1、A3、A4、A5、A6、A7、Q5、Q7、R8それに加えSやRSも調べた。どれもこれも人を惹き付ける魅力に富んでだ車種ばかりだ。しかし、最後に見たTTシリーズ、これだけは印象が違っていた。
・・・・・なんだこれ?
何というか、カッコ良くない。全体的に円そのもので、卵のような外観だ。例えるなら地球外生命体、エイリアンみたいに思えた。イケた車種が多いアウディにしてはミステイクで、ヘンテコな車種だなぁというのが始めてTTを見た時の印象だったのだ。こんな車買う人いるのかなぁ、とまで考えていたのである・・・・・その時までは。
検索、吟味
それから時は流れ、2013年。僕は19歳になり、就職し社会人になっていた。それまでは北海道に住んでいたが、就職先が関東ということで、単身本州へと引っ越したのである。
北海道にいる間に車の免許は取っていたが、社会人になってからも運転を車を運転するように心掛け、時折レンタカーで関東を巡っていた。
しかし、やっぱりレンタカーは物足りない。マイカーで無い以上、お金の問題などから数ヵ月に1回程度でしか借りられない。それに、折角広い本州に一人暮らししているのだから、もっと沢山のスポットを巡ってみたい。そう考えるようになっていた。
よし、車買おう。
一念発起、そう決意した。
そして冬のボーナスが出た12月、今の自分でも買って乗れそうな車を選ぶことにした。相変わらずアウディが好きなままだった僕は、迷わずアウディジャパンのホームページから認定中古車を調べてみる。
A1、A3、A4・・・あ、A5なんかも頑張ればいけるのか・・・。
価格帯としてはおおよそ300万前後。社会人1年目で稼ぎも多くないので、あまりにぶっ飛んだ車種を選択すると1年中ガレージに入れたままになってしまいかねない。ここは慎重に行わなければ・・・。
個性を出したかった僕はまず真っ先にA3とA4を除外した。確かに人も物も多く載せられるし、便利な車ではある。だが、あまりに街中に溢れてしまっている車種だ。正直面白味に欠ける。
ではA1はどうか?そこまで見かける車種で無いし、スポーツバックなら積載量もまずまずになる。でもちょっとオモチャっぽい。小回りが効きそうだし、扱いやすそうだけど・・・やめとこう。
A5。悪くない。デザインもカッコいいし、スポーツバックともなれば膨大な荷物を積み込むことも出来るだろう。とりあえず候補。
・・・うーん、A5かなぁ・・・。他に選択肢あるかなぁ・・・ん?
設定した価格帯の車種一覧を改めて見ていると、そこにTTが含まれていることに気付いた。
TT・・・か。その気になれば買える車種だったんだな。それまで全然興味が無かったから気付かなかったのだ。でも、よくよく見てみると・・・悪くない。何というか、とてもユニークなフォルムだし、スポーツカー。僕が求めていたコンセプト的には実に良くマッチしている。
内装もなかなか質感が高い。これはアウディ全モデルに言えることだが、TTの場合スポーツカーということもあり、SやRSで無くともそれなりにスポーツテイストに仕上がっている。
うん、決めた。TT、A5を第一候補、次点でA3かA4に妥協しよう。仮、という形でお目当ての車種を決めておくことにした。
ではいざ、ディーラーへと赴こうじゃないか!
成約の時
・・・・・着いた。向かったディーラーは都内の有明。お台場が目と鼻の先にある埋立海浜地区である。なぜ有明なのかと言うと、住んでいる千葉市から比較的近くて、展示している車種も半端無い数だったからだ。
生まれて始めて立つ、輸入車ディーラーの入口。それも一人で、だ。当時人と話すことが今よりずっと苦手だった僕は、殊更緊張した。勝手も分からないし、もしかしたらこんな19歳のガキ、冷やかしに思われて門前払いされるかもしれない。
でも、ここまで来たら後には引けない。
ウィーーン・・・
入口の自動ドアが開く。
「いらっしゃいませ。」
「車の購入を検討していて見に来たんですが・・・。」
「かしこまりました、ご希望の車種はありますか?」
「TTかA5を考えていて、TTから見てみたいです。」
「ではこちらまでどうぞ。」
意外と普通に受け入れられた。確かに今のご時世、若くても親がお金を握らせて来ることもあるし、そうでなくともローンを組むことも出来る。ブガッティやパガーニと言った、あからさまに手が出しにくい超高級車で無い限り、追い払われるケースは少ないのかもしれない。
そして、TTの前にやって来た。紹介されたのはファントムブラックパールエフェクト、つまりは黒で、直4、2リッターターボ、そしてFFだ。
写真とはまるで印象が違う。車長4180mm、車高1190mm、車幅1840mmというワイドトレッドなスポーツカー。ミドルノーズ、ショートテールな前後なのだが、円みを帯びているせいか、心なしか車が大きく見える。
「ちょっとエンジンかけてみましょうか。」
キュルキュルキュル・・・ブウォン!!!
やだ、エンジン音超カッコいい。想像以上だった。更に80фツインテールのテールパイプから放たれるエキゾーストノートは力強くも有りながらどこか心地好く、聞く者を魅了してしまうように感じた。スポーツカーに惚れる要因の一つはエキゾーストノートだと言うが、強ち間違いでは無い。
運転席に座ってみる。車高がとてつもなく低く、例えるなら地面に座っているかのようだ(まあ、R8やウラカンに比べたら幾分か高いはずだが)。まるで小学生にでもなったかのような目線になる。ミラー類も全体的に小さく、後方を確認するのには慣れが必要に思えた。
ステアリングはフラットボトムとなっており、スポークも手に馴染む形状になっている。アウディTTは人間工学に基づいて設計されたコックピットだと聞くが、なるほど、納得した。
ペダルもなかなかにディティールに凝っている。アクセルはオルガンペダル。これは人間が歩くときの足の動作と同じようにペダルが沈み込むので、速度の微調整が効きやすいというメリットがある。普通の車は吊り下げ式のペンダントペダルな上、大きさも小さいが、TTはブレーキペダルより大きく、およそ2倍近い。アクセル、ブレーキ共にペダルは金属製で、表面何ヵ所かにゴムが埋め込まれている。滑り止めの役割を果たすゴムは靴の底を選びにくい扱いやすさがあるだろう。
最後に車から降りて、ラゲッジルームを覗いてみる。テールゲートを跳ね上げると、荷室と客室が一体になったファストバック。通常状態は290リットルと少なめだが、後部座席を倒すと700リットルにまで上昇する。その分定員は2人減るが。ワイドトレッドの影響で、ラゲッジルームも横に広さがあり、奥行きもそれなりにある。買い物をしたときに荷物を縦に積みたくない場合に重宝しそうだ。軽自動車なんかは高さはかなりあるのだが、奥行きが壊滅的で、荷物を縦積みした経験がある。その点TTは通常状態でも横と奥行きが充分確保されているので、シティーユースからアウトドアにも対応出来る万能車種だと感じた。
「いかがですか?」
唐突にディーラーの営業マンから掛けられた声にハッと我に帰る。いけないいけない、ついTTのザ・ワールドに引き込まれ、時間が停止しているかのような錯覚に陥っていたよ。
つまりあれだ、僕はTTを実際に見て、一目惚れしてしまったのだ。
「試乗されますか?」
「いえ、これ買います!」
もはや試乗などする必要は無い。これだ、これこそ相応しい。生まれて始めて、心の底から欲しいと思うモノに出逢えた気がする。
正直なところ、クワトロ(フルタイム4WD)とFFで悩んだ。クワトロは特に雪国では必須な全輪駆動(AWD)で、スバルと並びアウディは4WDとして双璧を成す存在だ。だが、はじめっから4WDというのもどうだろう?確かに駆動力はずば抜けて高く、悪路での走行も信頼が置けるが、それに慣れきってしまうと他の駆動方式が怖くて乗れなくなるという話も聞いたことがある。で、あれば敢えてFFを選び、車の扱いに慣れるというのもアリだと考えた(まあクワトロはFFより40万程高く、買うと支払いが厳しいというのが本音なのだが)。
かくして、TTを買うことを決め、書類の記入に入る・・・が、ここで厳しい現実に直面することになる。全額キャッシュで支払いでもしない限り、ローンを組む必要がある。まだ19歳のガキんちょがローンで車を買うには基本的に保証人が不可欠なのだが、残念ながら保証人となってくれる人に心当たりが無かった。元々両親は仲が悪く、色々あった後、現在は「別居」している。しかも両方とも厳格な人だったから、「車を買いたいから保証人になってくれ」と頼んだところで、到底OKしてくれるとは思えなかった。
「一旦家に帰って、両親に保証人になってもらえるかどうか、連絡してみます。」
そう言って、とりあえずその日のところは引き上げることにした。
絶望の淵に垂らされた蜘蛛の糸
「無理に決まってるでしょう、あんたの歳で車、しかも外車なんて・・・もっと現実を見なさい。」
返ってきたのは母親からの冷たいメール文面。火を見るより明らかな返答だった。確かに母親の言うことは最もだ。社会人になってから1年しか経っていないのに、中古とはいえ輸入車を買おうなんてのは世間一般的に見ればアホだ。仕事にもろくすっぽ慣れていない中、車の維持管理まで行っている余裕は無い、と考えられたのだろう。
「すみませんが無理です、諦めてもっと安い車を買うか、歳を取ってからにして下さい。」
父親からのメールも母親と大差無かった。ハッキリ言って父親のように無気力、無能力な人間に言われるのは腹ただしいことこの上無い。とは言え、正鵠を得ているのも事実。
「やっぱ諦めるしか無いのか・・・。」
僕は絶望していた。お店側は保証人さえ付ければ成約可としているのに・・・あと一歩のところで手詰まりになるなんて。
スマホの電話画面を呼び出し、ディーラーに連絡する。出たのは昼間接客を担当してくれた若い営業マンだ。
「どうでしたか?」
「両親に掛け合ってみたんですがダメでした。なので悔しいですが、今回は諦めます。もしも機会がありました、また宜しくお願いします。」
「そう、ですか・・・。いえ、こちらこそありがとうございました。お気を落とさずにまたいらして下さい。」
電話を切ってから暫く、呆然としていた。何をしたらいいのか分からない。大袈裟かもしれないが、TTもといアウディを買って乗り回すというのが、僕の人生の夢だった。それが叶うかと思っていた矢先、夢は絶たれてしまった。
「・・・・安い車は買おうかな。」
ネットで適当に車を検索する。国産車であれば、割りと安く、保証人無しでも或いはいけるかもしれない。TT以外なら、マツダのRXー8に興味があった為、調べてみた。マニュアル、4シーター、ロータリー、なかなか面白味がある良い車かもしれない。でもロータリーエンジンは定期的にオーバーホールしなきゃなのか。
どうしよう、RXー8に妥協しようか、うーん、でもなぁ・・・・。
プルルルルル!!
「!?」
電話だ。唐突にスマホの画面が光って着信し始めたからびっくりした。電話に出ると、昼間接客を担当した営業マンからだった。
「さっきのTTの件ですが、」と前置きしてから
「今回は保証人無しでいきましょう!」
・・・へ?今何と?
耳を疑った。つまりは保証人無しでTTの購入手続きを進めてくれるというのだ。話を聞くと、そこの店長に営業マンから話をした結果、保証人無しで購入させても良いと許可が下りたらしい。なんて心の広い店長さんだ。昼間はお目にかかれなかったが、感謝してもしきれない。本当に嬉しかった。
こうして、無事にアウディTTを成約することが出来た訳だ。
TTが我が家に来た日
その後は営業マンと綿密にやり取りをし、何が必要で、どういった手続きが必要か細かく教えられた。分からないことがあれば都度質問したり、ググり、無事納車予定日に間に合わせることが出来た。
2013年12月22日。その日が来た。
再度有明のディーラーに赴き、入口の自動ドアをくぐる。
「お待ちしておりました。」
受付に名を告げるとそう言われ、少し待つと例の営業マンが現れた。
「ご成約おめでとうございます。」
「こちらこそ色々ありがとうございました。」
僕は深々と頭を下げ、感謝の意を表する。と、営業マンのすぐ隣に大柄な男性が立っていた。
「うちの店長です。」
「店長の◯◯です。この度はありがとうございます。」
「こちらこそありがとうございます。」
体格が良く、柔和な笑みを浮かべる店長。このお店の、この店長に出会わなければ、きっとアウディを買うことは出来なかったと思う。ベタな言葉だが、運命すら感じた。
その後、TTの元に近寄り、ゆっくりドアシルに手を掛ける。
ボッと言う音と共にドアが開き、運転席に座り込んだ。
二度目となるTTの運転席。前回、ディーラーに行った時とは異なる、不思議な感覚。嬉しさ半分、緊張半分、と言ったところだ。
キーを鍵穴に差し込み、手首を捻りイグニッションさせる。力強い音と共にエンジンが始動した。
「道中気を付けて下さいね。」
担当してくれた営業マンが言う。
「はい、何から何までありがとうございました。」
「また何かあれば気軽にお越し下さいね。」
営業マンに別れを告げ、ドアを閉める。静かにアクセルを踏み込み、ゆっくりとTTが動き出す。
ディーラーの従業員さん達に見送られながら、お店を去った。
次の日、会社の同僚2人を誘って千葉県内を軽くドライブした。その時に撮ってもらったのが、下の写真だ。その時はまだ19歳だったから、随分若い(笑)
その後
それからというもの、仕事が休みの日は勿論、仕事の日も運転の練習がてら片道25kmの会社と家を平均2時間かけて通っていたこともあった。あちこち行くうちに秘境に興味が出て、今に至る。何故秘境に目覚めたのかは下の記事を読んで頂きたい。
これからも末永く、相棒TTと共に冒険を続けて行けることを心から願いたい。
相棒TTと撮影したオススメスポットを地図にまとめています。良ければ愛車と写真撮影する際の参考にして下さい。記事内にイチオシスポットも挙げて幾つか紹介しています。
今まで訪れた秘境スポットを地図にまとめています。
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僕が行ったことのある観光地をマイマップにまとめました。
観光地についてもそれなりに行っていますので是非見てみて下さい。