廃車、倒木、限界高標識、廃隧道、そんな廃道の美しさ全てが詰め込まれた場所が千葉県にあるのをご存知だろうか?
廃国道410号線、三島隧道
君津市と鴨川市を結ぶ地点にその場所はあった。
まさに廃道の王者
現国道と並走する廃道区間
房総半島の背骨と称される国道410号線。
現在は大型車も離合に気を使うことも無く、安全に通行出来る片側1車線の立派な2車線道路となっているが、かつては大型車は勿論、小型車ですら交互通行しなければならない程狭隘な区間が存在していた。
上の地図で廃道区間と示した部分に往時の姿が残されている。
今回はその国道410号線の廃道部分、三島隧道前のレポートをお届けしていきたいと思う。
住民悲願の国道、しかし…
出典:今昔マップ「昭和19年大多喜5万分の1」
1953年に開通した国道410号線は、地元住民や林業者がこの山間部を抜ける為の重要拠点だった。上の地図は今昔マップから昭和19年大多喜の5万分の1地図に描かれた当時の様子で、現国道とは随分線形が異なっていることが分かる。
しかし山間部の道は狭く、4t車など大型車の通行は不可能で小型車ですら行き違いに支障をきたしているという、まさに酷道。
加えて災害に脆弱な部分も多く台風通過後は路肩決壊、法面崩落といった被害も珍しくなく、修復を余儀なくされていたのだ。
では行って、きます。
迷うこと無い一本道
ホラーテイストな廃道入口
まずは廃道への入口。「通行止」と書かれた看板は見るからに朽ち果て、ホラーなテイストが漂っている。こんなの夜中に見たら泣いちゃいそうだ…。
現国道君鴨トンネル北側に細い分岐があり、林道渕ヶ沢奥米線へと通じる道となっていて、今も使われている。分岐に入ってすぐ、バリケードされた場所が廃道の目印となる。
※夜中に見るとこうなります
ギャーーーこわいーーー!ダメじゃん!もうこれ肝試しじゃん!!
なんでこんな時間に行ったのかというと、この日は勝浦近辺を探索していて、そのついでと思い最後にこの廃国道へと足を運んだ。しかし時間が遅すぎて日が落ちてしまい、辺りは真っ暗。とはいえせっかくここまで来たんだし入口くらいは拝んでおこうと思い・・・これだ。
ちなみに反対側からのもあるのでお楽しみに・・・。
現道見下ろす廃道ストレート
入口から程無くして、旧国道のストレートを歩くことに。
道幅は精々1.5~2.0mくらいで、脇がガードレールで守られている為、対向車が来ても到底すれ違えない。
これが以前の国道だったと思うとかなり頼りないものであり、「背骨」の役割を果たすには役不足と言えるだろう。
左下に見えるのが現国道410号線。
狭隘だった区間は解消されており、線形も大幅に修正され、カーブが少なくなった為大型車にとっても快適な道となった。
眼下に見えるのが君鴨トンネル。
1993年に完成し、延長696m、幅員7m、限界高4.5mであり大型車の通行も可能にした。
そしてここからいよいよ「廃道」が始まる。
土砂に埋もれたアスファルト
アスファルトは土砂が積もり、倒木や生えてきた植物が散見される。
廃道化されて既に四半世紀が経過した今、「道路」はすっかり滅び、野生動物の住み処となっている。廃道というのはある種、野生動物にとっては楽園なのかもしれない。
よーく見るとカーブミラーが木の奥に埋まっている。
しかもミラーは外されていない。とはいえ、こうも植物に覆われてしまってはミラーとしての意味をなしているとは言い難い。
役目を終えながらも健気に路肩を支え続けるガードレール。既に傾き、崩落も時間の問題と言ったところだ。
倒木や落石を越え、木の枝や藪を払いながら進むと・・・
時知らずの王室
廃車+廃隧道+倒木+限界高標識
「!!!!!」
思わず息を呑む光景がそこにあった。
置き去りにされたランクル、閉ざされた隧道、苔むした石壁、道を塞ぐ倒木…。
加えて上の写真には写っていないが、限界高を示す標識まであるのだ。
まさに「廃道」の全てを詰め込んだ空間と言える。
時間を切り離され永遠に時が止まっているのではないかと錯覚してしまう程だ。
現在地。西側を通る現国道の君鴨トンネルとは僅か100mしか離れていない。
廃道にも様々な種類があり、ダム湖に沈んでいく水没廃県道24号線やおせんころがしのような断崖に残された廃国道128号線、毛無峠のように壮大なパノラマを纏う廃県道112号線、出で立ちや景色は千差万別である。だがその中でもこの三島隧道前というのは一線を引く存在に思える。孤高であり、至高。この廃道に相応しい二つ名ではなかろうか。
各レポートはこちらから
言葉に出来ない美しさ。
隧道の限界高は標識が示す通り、2.9m。三島廃隧道の幅員は目視で精々2mといったところで、到底大型車の通過は不可能だ。
緑色一色に染まった石壁。
まるで古城の石垣である。
傍らには三島隧道の掘削作業で殉職された方達の慰霊碑がある。
まだ隧道の掘削技術が発達していなかった時代、機械でなく手掘りにて隧道は造られた。
それは三島隧道も例に漏れず、手作業にて掘られた為、命を落とす方が沢山いたのだ。
哀れにも放置され、苔むしたランドクルーザー。俗に言う、草ヒロというやつか。
テールゲートに「CYGNUS」と書かれたこのモデルは100系にあたり、レクサスLX470の国内版で販売された。何故このような場所にあるのか詳細は不明だが、恐らく盗難車だ。ナンバープレートが外されているというのが如何にも怪しい。
地面は土、というより泥に覆われ草が生えていた。
掘り返された泥を見る限り猪が泥浴びをしているように見受けられる。事実この時猪の親子がこの場所にいて、僕の姿を見るなり一目散に藪へ姿を隠したのだった。
ついでに言うとこの場所、春から秋にかけてはヤマビル天国である。実際僕も始めて訪れた時は猛攻を食らい、大変な目に遭った。特徴と対策については以下レポートを参照して頂きたい。
(2019年6月15日追記)
こちらは4度目かの探索での写真である。
この日は同行者がおり、三島隧道まで進むことになった。
6月で雨交じりということもあり、ヤマビル殿は大活性。パリピしてんのかと言いたくなるくらい、ウジャウジャ湧き出てきては足元にへばり付く。そして何故かニコチン嫌いなはずのヤマビルが、ヘビースモーカーの不知火にばかり取り憑いて来ては這い上がろうとしてくる。その度に「これが欲しいのか?」と言いながら塩をふりかけ、ヤマビルを殲滅していた。・・・不思議と非喫煙者の同行者さんへは「血、頂きに来ました!」というヤマビルがかなり少なかったというのだから、理不尽さを実感した。ヤマビルに好意を寄せられたって1ミリも嬉しくは無いのですが・・・。
塞がれていたはずの三島隧道の鉄板は何者かによって外されており、内部が覗き込めるようになっていた。
縁に立ってやや屈みながら三島隧道内を撮影。反対側の鴨川側の出口鉄板がしっかり目視出来る。思っていたより隧道は短く、さほど不気味な印象は受けなかった。
草ヒロと化した、ランクルシグナスを正面から撮影。
フロントグリル下まで土砂で埋め尽くされていて、その荒廃具合に拍車を掛けている。
ここまでボロボロになりながらも、どこか威厳を感じるのは、それがランクルであるからだろうか?
オブジェ。まさしくそうだ。
この「廃国道410号線三島隧道」の光景は、「棄てられたランクル」という決めのスパイスによって出来上がっていると言えるだろう。不謹慎かもしれないが、ランクルが無ければここの廃道風景の良さは発揮されなかったと思うし、何度も訪れたくもならなかっただろう。
ここで同行者さんに不知火はポロっと言う、「ランクルのドア開けられるみたいですよ」と。すると同行者さんはほぼ躊躇い無く、ランクルのドアに手を掛け、開けようとする・・・!
「エッ・・・マジで・・・?」
不知火が驚く。まさか開扉を試みるとは露にも考えていなかったので、大胆過ぎる行動に恐れいってしまったのだ。だって絶対中ヤバイでしょ・・・。
ゆっくりと運転席のドアが開いていき、内部の様子があらわになる。
・・・・・っ!!!
鳥肌が立った。これが廃隧道の傍らに残置され、風景の一部に組み込まれた、ランクルシグナスの内部である。
自然の猛攻は内部にまで及び、随所に苔やカビが生えている。フロントガラスにヒビが入っているものの、概ねまともな状態が維持されていた。
チキンな不知火は普段の単独探索なら決して廃車のドアを開けて撮る勇気が無く見送るが、同行者さんのパワフルなアクションによって切り開かれた形と言えよう。この場を借りてお礼を言わせて頂きます。ありがとうございます。
来た道を振り返って撮影。
廃道化から四半世紀程で自然と遜色無いくらいに道は朽ち果ててしまっていた。
改めて自然の脅威さを実感する光景だ。かつて国道として名を馳せていた頃の面影は無く、ジャングルのように繁茂していく植物に蹂躙されるがままである。
三島隧道鴨川側へ
今なお使われる旧道
ちなみに、三島隧道、つまりトンネルということは反対側がある訳である。
ちょっと行ってみます。
半分だけバリケードが置かれているのは、この先に林道横尾線と林道高山線がある為、その接続区間として未だ使用されている。
林道横尾線は林道大山線、林道大幡線へ続き、林道高山線は林道渕ヶ沢奥米線へ合流する。特に高山線、横尾線、大山線と走り繋げば、房総では貴重なロングダートを体感出来る。
※夜中に見るとこうなります
やべえよ、やべえよ・・・(°Д°))))ガクガクブルブル
だってこの旧道街灯一本も無いんだぜ?って当たり前だけどさ。
一匹狼な僕は基本どんな場所の探索も単独で行う(単にボッチなだけでh(ry
だがこの時だけは単独で来たことに後悔した。流石に心霊スポット一人は怖い・・・。
カーブミラーはミラーがあったり無かったり。
この場所では林業関係者が斜面の林を伐採している場面があり、工事車両が行き交う様を目撃している。一般車が林道へアクセスする為だけでなく、道が使用されていることになる。
※夜に見ると(ry
「!?」
何この写り方!?こわ!しかもこの時フクロウがバサバサバサって飛び立って二重でびっくりしたし。
(ってかこれ「のっぺら棒」じゃね)
ここは中途半端な道になっているが、右手前は君鴨トンネルが開通し現国道の橋脚が完成するまでの間供用されていたからである。
ここまでの場所は大体片側1車線が確保されていたのだが、この先三島隧道までは1.5車線程しかない。
三島隧道前到着。相棒TTが泥まみれなのはこの先にある林道横尾線でやんちゃをしたからである。
↑やんちゃ
三島隧道すぐ脇には横尾線の林道標が設置されており、そのまま林道起点となる。高山線はほんの少しだけ東側にある三叉路からが起点だ。
三島隧道鴨川側に到着。隧道入口は鉄板でガッチリと塞がれてしまっている。鉄板のボルトは数本外されていて、中を覗くことも、反対側へ行くことも可能なのだが、夏真っ盛りのこの時期は、ヤマビルが面倒なのでここまでにしておこう。
※夜中に(ry
「シュコー・・・シュコー・・・シュコー・・・」
・・・・・・なんか変な音聞こえるんですけど・・・・。さながらベイダー卿がマスク着けてる時みたいな音が・・・。もうここまで来ると怖いとか何とも思わなくなるな。
(ちなみに隧道前を見てから現道に戻るまでの間、「聞こえるはずの無い話し声」が聞こえて背筋が凍った。工事関係者のおじさんのような声だった気もするが、もしや隧道掘削で亡くなった方の霊・・・?)
最後に
「廃道」とは一つのジャンルのように思う。
道としての価値を終え静かに自然と同化していく。
美しくも儚い、廃道の世界であった。
終
「時知らずの王室」で掲載した写真はLightroomでのレタッチ方法を記事に載せています。是非合わせてお読み下さい。
相棒TTと撮影したオススメスポットを地図にまとめています。
良ければ愛車と写真撮影する際の参考にして下さい。
記事内にイチオシスポットも挙げて幾つか紹介しています。
今まで訪れた秘境スポットを地図にまとめています。
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僕が行ったことのある観光地をマイマップにまとめました。
観光地についてもそれなりに行っていますので是非見てみて下さい。