千葉県の県庁所在地、千葉市。
中央区、美浜区、稲毛区、花見川区、若葉区、緑区の6つの区域から生り、県内1の人口を持つ市である。
市街地、港湾、山間部と多様な顔を持ち、数多くの住宅、店舗、観光地を有している為、秘境等に興味の無い人は千葉市内を回るだけで事足りてしまうことだろう。無論不知火のような人からすれば「秘境観光しに行くか」となりがちだが・・・。
そんな県庁所在地である千葉市に、ジュラシックパークさながらの秘境スポットが眠っていることはご存知だろうか?
クラン坂
かつて千葉市緑区土気町には土気城という城郭があった。
その歴史は古く、築城は724年から729年と言われており、1590年の小田原征伐で廃城となる迄その城主の拠点となっていた。
千葉市緑区土気町から大網白里市に掛けての場所は舌状台地となっており、その「舌」の部分が小高い丘であったことから土気城が築かれた。
土気城の本丸から続く道は空堀で、これが俗に言う切通し、クラン坂と呼ばれている。
クラン坂という名称は「昼尚暗い坂」という意味の「くらみ坂」が訛って「クラン坂」に変わったと言われている。
今回はそのクラン坂へ、アウディTTで到達するという物語である。さて、どのようなシチュエーションが待ち受けているのだろうか・・・。
暗闇往路
名は体を表す
現在地は千葉市の緑区土気町。
「土気」と見ても「どき」「つちけ」「つちき」くらいしか読めない、難読地名の一つである。
実際不知火も「どき」と読んでしまったクチなのだ。
空は生憎の雨模様でスッキリしない天気だが、大抵不知火がTT一台で出掛けるときは雨なので、もはや「雨神様」が守護霊として宿っているのでは無いかと思っている今日この頃。
そんな中、この日も元気に秘境へ赴く不知火とその相棒TT。秘境探索に天気など関係無いのである(ヤケクソ)。
T字路を右折し、クラン坂が待ち受ける方面を目指す。
一気に秘境染みて来たな・・・。
天候も相まってお誂え向きなシチュエーション。
確実に「この先に何かある」香りがムンムン漂ってくる。
解説する必要は無いと思われるが、ここで右。
左はJALの研修施設となっていて、前述の土気城跡でもある。電話すれば許可は貰えるそうなので、城址マニアは行ってみてもいいかもしれない。
現在地。便宜上、レポートで辿った場所はルートとして赤線を描き加えているが、まだクラン坂は始まっていない。俺たちの戦いはこれからなのだ。
さて、右手に入っていよいよクラン坂に差し掛かる。すると・・・
暗ッ!
いやマジで暗い。
天候不順なこともあるが、それにしても9月の朝5時を回っていてこの暗さだ。先程迄の明るさと比べてみれば一目瞭然で暗黒世界が広がっていた。
クラン坂とはまさに言い得て妙である。
荒れが見辛い急勾配
坂、というだけあってここからは下りの急勾配。1速で慎重に進んでいく。
路面は穴ぼこと堆積物のオンパレードで、一瞬ダートかと思ってしまった程だ。
サラサラサラ・・・
車体の左側面から植物がボディを撫で回す音が引っ切り無しに聞こえてくる。
植物からのアツいアプローチはぶっちゃけどうでもいいのだが、問題は路面が見えないことだ。デカイ穴やぶっとい枝があったらスコーンと落ちるか踏み抜くことになる。
それだけは勘弁願い奉りたい・・・。
車両へのダメージを極力最小限に留めることに注意を払いながら、亀に追い越されるような速度で徐行する。
にしても・・・ここは千葉市、いや日本か?
薄暗いが、周囲のシダや生の岩の斜面や背後に聳える木々に加え、立ち込める霧がまさにジュラシックパークのそれだ。
仮に未知なる巨大生物とこんにちはしても驚かないだろう()
あ、あれは(TTにとって)特大サイズの石ころ・・・しかも突破しようとすれば確実にフロントリップから「バッキン♪」という快音が鳴り響くことになるやつだ。
よっていつもの作業に移行する。
暗闇から現れた一体の亡霊・・・もとい管理人不知火である。
写真で見ると大変落ち着いた挙動を見せているが、その実「やれやれここでも降りるのか」という諦めとも慣れとも取れるような何とも言えない感情が秘められている。
まあ秘境道中では日頃から清掃活動に従事しているし、1箇所辺り数十秒から数分で済ませることが出来るのでそんな大逸れたものでも無いのだが・・・。
降りてみて初めて植物の脇に潜んだ枝や石に気付く。比較的脇に寄せられていることから時折市が清掃しているのかもしれないが、ボコボコの路面を見る限りその維持は必要最低限なのだろう。通行量は皆無に近いだろうからな。
まだ暗い時間帯なので撮影には不向きだが、明るくなったときのことを考えながら進む。
この辺なんかはかなりワイルドな写真が撮れるだろうな・・・。
現在地。クラン坂自体の距離が短いので、既に半分は辿ったことになる。
無論まだ写真すら撮ってないし、明るくなってから写真を撮るのでご安心を(?)。
路面がヤバい(今更)
アスファルトは抉れ、段差のようになり、枝や石が散らばり、難易度を跳ね上げてくる。
段切り、ブリッジといった基本技を駆使しながらアンダーを擦らないようにしてクリアしていく。
とんでもない高さの断崖だな・・・。
例え薄暗くとも、圧倒的に立ち上がる巨大な壁に怯みすら覚える。
土気城ではあの崖の上から切通しを通る敵に集中砲火を浴びせたというが、たまったものでは無かっただろう。
ドMが悦ぶ獣道
現在地。クラン坂自体は終盤、レポートは中盤。そろそろ濃い景色が登場する。
Y字路が見えてくる。
右手がこのまま大網白里市の南玉地区へ続き、左手は、というと・・・
こ れ は ひ ど い
完全な獣道。ジムニー先輩かランクル師匠かオフバイクか農道のポルシェかチャリンコか徒歩用でその他は否応にもシャットアウト。
地図上では道が描かれているが、著しく探索者を選ぶハードコアなコースと言わざるを得ない。仮に上記の方法で突破しようとしても・・・ドM御用達な道のりになるだろう。
現在地。ではお待ちかね、「クラン坂」と言える一枚をご覧頂きたいと思う。
薮超えて森
・・・・・・敢えて聞こう、ここは本当に千葉県か・・・?
背後を構成する景色がまるでオカシイ。
至る所で樹木が生え伸び天を目指し、自然剥き出しな斜面からもまた数多の植物が繁茂している。
目に映るそれはテレビの3チャンネルを押すと放送している千葉のローカルテレビ放送「チバテレ」では決して放送されることも無いような「ザ・マニアック」。もし仮に「チバテレ」で放送されることがあれば、視聴者の脳裏に鮮烈なまでに焼き付くことだろう。
棄てられたハコ
さて、正面に視線を動かして頂くと、何やら奇怪なモーションで藪を払う青年が映る・・・が、着目して欲しいのはそこでは無く、その右側に転がっている四角い箱状の物体だ。
これは一体・・・?
廃車である。
横倒しになり、テールゲートは消え失せ、哀れな程にズタボロになっている。
現在地。クラン坂の終端によもやこんな廃車が転がっていようとは・・・。
フロントの破損具合も惨憺たるものだった。
正直車種はハッキリ分からないが、リアやルーフの形状からダイハツネイキッドでは無いかと推測する。
最も、この廃車は不知火が訪れた2021年9月のすぐ後に撤去されてしまったようで、今となっては過去の記録でしか無いのだが・・・。
こちらは相棒TTで突撃する直前、代車のエッセくんで偵察した際の様子である。
何か忘れたが、当時相棒TTは行きつけの整備工場へ修理に出しており、代わりに来たエッセくんで夜中のクラン坂を一人で見に行った次第だ。
ヘッドライトの明かりのみで浮かび上がる余りにも鬼舞辻無惨な廃車の様は怖さを通り越して憐憫の情を抱く。
ちなみに、クラン坂の終点の東側はどうなっているかというと・・・
おおん・・・道・・・どこにあるん???
廃車より東側、クラン坂の終点のすぐ東。
獣道。実は路面は辛うじてアスファルトなのだが、8月の草木も繁茂する時期となれば廃道か山道と見紛う程の獣道が出来上がる。
足の短い(車高の低い)相棒TTで突撃しようものなら、アンダーパーツを持って行かれるか、配線ケーブルが引き千切られるだろう。
濃厚な復路
明るさが魅せる峻険なる美貌
さて、相も変わらず雨が降りしきるが、ようやくとクラン坂も明るさが増してきた。
ここからは来た道を戻る復路となり、薄暗いときに目星を付けたポイントでの撮影をしていく。
これならかなり良い絵面が撮れるのではないか・・・?
霧立ち込め雨降り頻る五里霧中を一人と一台で進む・・・もとい戻る。
ここは一枚撮っておかなければなるまい。
樹海断崖
聳える断崖、繁茂する植物、雨霧で霞む一帯・・・。
望むべくして現れた、秘境。光景が持つパワーは強大で、見とれてしまう程だ。
ぶっちゃけティラノサウルスとエンカウントしても可笑しくないくらい峻険で野性的ですらある。
現在地。「聳える断崖」と呼称した地点がそれだ。
何度でも聞こう、ここは本当に千葉県か・・・・・?
特に県外民が思い浮かべる、夢の国、田んぼ、広い海という三大印象からあまりにもかけ離れている。
「千葉県には素掘隧道と切通しが多い」という事実を知っていなければ目ん玉をひん剥いて驚愕すること間違い無しである。
知っていてもレベチ過ぎて驚くのだが。
繰り広げられるジュラシックパーク
線形は緩やかにS字を描くが、道はもはやジュラシックパークのアトラクション。
かつては単に土気城の抜け道兼敵を狙い撃つ為に掘り抜かれた切通しだが、長い年月を経て草木や苔に装飾され、今や自然と人工が調和した芸術のようなスポットとなったのである。
・・・ところで、この辺の路面は一段と修羅なのだが、特に酷いのが、
もうこれ穴じゃん()
いや、正確には「穴だった場所」だ。ブロックや煉瓦の欠片が埋め込まれている為、かなり段差は軽減されているものの、やはり相棒TTにとっては立派な段差に成り代わり、通過するだけでも四苦八苦する。
こんな路面通ってたのか・・・、と思わず苦笑いする不知火。真っ暗なときは分からなかったが、通りで途中一箇所「ゴリゴリ☆☆☆」と出来れば聞きたく無いサウンドが鳴り響いた訳だ。
クランストレート(仮称)
極々短区間だが、直線となっている。
だからなのか、道幅も一層狭くなっており、軽自動車でも無い限り確実に草ブラシの洗礼を受ける羽目になるのだ。
ところで既にここは大網白里市から千葉市に移っている。つまるところ、ここからの景色は正真正銘、千葉市のクラン坂である。
唐突に車を停め、傘と三脚付き一眼レフで登場した管理人不知火。
大網白里市の「クラン坂」もいいが、千葉市の「クラン坂」も撮っておきたい、と思ったからだ。
よくこんな豪雨の秘境で身体張るよな・・・←
道の狭いここで重く分厚い相棒TTのドア(厚さ約20センチ)を開けて、テールゲートを開けて三脚と一眼レフを取り出し運ぶのだ。余程ここで撮りたいという欲望が無ければやりたいとも思わないことだろう。
Canonの外付けストロボ、スピードライト430の発光。
一見バイクのヘッドライトかと見間違うが、ストロボだ。
PLフィルターを付けながら手持ちで撮ろうとすると露光時間が足りなくてISO感度を犠牲にしなければ被写体が映らないので、三脚を立てバルブ撮影で露光量を稼いでいる。
では皆の衆、準備は宜しいか・・・?(何の)
霧幻雨艶
幅員を侵食する草の群れ、霧で薄ら白む樹空、全てを艶めかせる降雨・・・。
刮目せよ、これこそが千葉県の県庁所在地、千葉市の本気を出した姿である。
県庁所在地という肩書きがある為、普段はビルや住宅地で武装している千葉市。しかし真に秘めたる様は荒々しくも美しい、まるで阿修羅のような自然そのものなのだ。
信じられないというのなら、今一度Googleマップでご確認頂きたい。「千葉市」という市名が目に飛び込んで来るはずだ。
衝動を抑える登り勾配
現在地。しっかりと市境を越えている。
正直撮ろうと思えば幾らでもオイシイ千葉市を撮れるのだが、かなりの急坂に加え、荒れた路面とこの雨だ。あまり登り坂で停車から発進は繰り返したくない。
撮りたい、と思う衝動をグッと抑えながら登っていく。
登り勾配での停止発進は只でさえ古いクラッチに負担が掛かるからな・・・。
ドラレコで見ているだけでも分かる絶壁感。
茶色い岩肌の切通しがあるだけでも相当に好きな絵面だが、草木が生い茂っているというのがプラスαの萌えポイントだ。
モッサモサやん。
車体左側にゼロ距離で迫る草。迫るというより濃厚接触しておりもはや草ブラシ。
このレベルだと普通車は元より、軽自動車でさえもその洗礼を頂戴することになるはず。
あ、路面が優しくなった。
クラン坂も終局。味のある岩壁から無味乾燥な混凝土の法面に戻る。
ボコボコガタガタしていた路面もフラットになり、極端な話、アクセルをベタ踏み出来る()
あれを曲がれば日常に戻る・・・。
雨で滑りやすくなっていてなかなかにハードな探索だった為、後ろ髪を引かれる思いというよりは安堵に近い心情。
ただいま千葉市。
日の出前から降っていた雨は変わらず降り続いている。
路肩に車を寄せ、暫し休憩する。
原付はおろか、歩行者ですら見掛けなかったので、通行量はほぼ皆無だが、無意識に路肩に寄せるのはもはや習性のようなものである。
それにしても・・・強烈なインパクトの場所だったな。
終わりに
大凡の人が持っている「千葉市」というイメージから乖離した光景が広がるクラン坂。
そのポテンシャルは大袈裟でも何でも無く、正真正銘の、秘境。
車種によっては、なめプしながらでも往復出来るだろうが、車種によっては腕が試されることになる。
アクセスは良好であるので、お手軽に非日常を味わいたい方は是非冒険してみて欲しい。
終
相棒TTと撮影したオススメスポットを地図にまとめています。
良ければ愛車と写真撮影する際の参考にして下さい。
記事内にイチオシスポットも挙げて幾つか紹介しています。
今まで訪れた秘境スポットを地図にまとめています。
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僕が行ったことのある観光地をマイマップにまとめました。
観光地についてもそれなりに行っていますので是非見てみて下さい。